私は本当に世間知らずだったから、何も分かっていなかった。何でも好きなものを買ってくれて、お部屋を白い猫脚の家具で揃えてくれて、料理なんか出来なくても毎日食事に連れていってくれて、けれどそれは、あなたが毎日働いてお金を稼いでくれていたからで、あなたは私を働かせようなんて絶対にしなかったし、料理なんか覚えなくてもいいと言ったし、いつでも私の好きなようにやらせてくれていました。私も今ならわかる。あなたにどれだけ甘やかされていたか。どれだけ大切にされていたか。あなたが、世の中の煩わしいと思われるようなあらゆることを私から遠ざけようとしてくれていたのだと、わかる。そして、とても申し訳なく思います。
あなたに届くわけでもないこんな懺悔はただ滑稽で、無意味なのかもしれない。それでも。何にでも意味があると考えるほうが、不自然だとは思いませんか。私は今、そういう気分で、あなたに心から謝りたいと思った。それだけです。本当に、それだけ。
あなたの中で私は永遠に「わがままで、気が強くて、情緒不安定な、困ったオジョーサマ。あるいは聞き分けのないオコサマ」なのでしょう。実際のところ、その通りなのかもしれない。でも大人になったの。もう一人で電車に乗ってどこへでも行けるんです。あなたに手を引いてもらわないと出かけることも出来なかったわたしとは違います。もし、またお逢いするようなことがあったら、その時は珈琲でも入れて差し上げますね。ああ、あなた、珈琲は苦手でしたっけ。