遊戯標本その2:白百合ごっこ

:::花はその花弁をひらくとき、自分が最も美しいことを知っている:::


私たちはみんな、本当は男の子のことが気になって仕方がなかったけれど、男の子なんて汚いから、女の子のことが好きなふりをしていた。

アイちゃんの髪は絹のようにさらさらで、光に当たると深い緑色に見える。宝石みたいだ、と思う。私の艶のない癖っ毛はプールの塩素にやられてますます哀れだった。だからスイミングスクールになんて通いたくなかったのだ。どうせなら、バレエかピアノを習わせてくれればよかったのに。それでもアイちゃんは、私のちぢれた髪を、「ふわふわでフランス人形みたい」だと言った。光に透ける細い髪を、「きれいな琥珀色」だと言った。

アイちゃんとは同じ吹奏楽部でフルートを担当していた。フルートの透き通ったやわらかな音色がいつでも私たちのBGMであることがとても嬉しかったし、ぴったりだとも思っていた。私たちは14歳で、女の子で、それが何よりも素晴らしいことだと知っていた。

放課後、屋上で二人のお気に入りの曲をアンサンブルするのが私たちの日課だ。私は譜面と交互にアイちゃんを眺めた。しなやかな指が銀色のキイの上を撫でるように滑り、薔薇色の頬は息を吹くたびに緩んだり緊張したりを繰り返していた。
ほんの僅か、アイちゃんの目が何かを追うように動いた。いつもなら8小節目の頭にアイコンタクトをとるところで、アイちゃんはよそ見をしていたのだ。私はひどく不愉快な気分で、その視線の先を辿った。新任教師のマツダ。私が男の名前なんかをわざわざ記憶しているのは、近頃アイちゃんが、そいつを目で追うようになっていたためだ。

「男子ってうるさいし、バカだから嫌いだな。私には、リルカちゃんがいればいいの。だからずっと一緒にいようね。」私の肩に自分の頭を寄りかからせて、アイちゃんはよくこんなことを言った。私は男のことなんか好きでも嫌いでもなかったし、別にどうだってよかった。アイちゃんが変わりはじめたのは、マツダがこの学校に赴任してきてすぐのことだった。初等部の修学旅行でお揃いで買ったうさぎの巾着は、有名ブランドのロゴが入ったポーチに変わった。スカートを一段多く折り返すようになり、下品な香りが鼻につく日もあった。それでもなおアイちゃんは、クラスの、校内の誰よりも可愛かった。

「ねえリルカちゃん、私のこと、バカだって思うでしょ。リルカちゃんが男の子だったらよかったのにな。ねえ。どうして、女の子同士って、結婚できないのかな。」それって、大事なことなの?と私は言ったが、物憂げな表情で何か物思いに耽っているアイちゃんの耳には、届かないようだった。ずっと一緒にいたかったな、そう思うと少しだけ寂しい感じがした。だけどきっと、彼女はいつか私から離れていってしまうのだ。それは私だって、同じなのかもしれない。私たちは14歳で、女の子だった。
アイちゃんは新任教師との交際がバレて他県の学校へ転校した。私は都内の女子校へ進学すると、すぐにフルートをやめた。