宵はヨイヨイ明けてはこわい。

酔狂の過ぎるお時間です。

毎日桜並木の下を歩いているので下手に口をひらくと魂がでていってしまう。行燈に照らされた夜桜なんかはとくに危険だ。うっかり川の底に天国への入り口があるような気分になる。

 

さて今日からしがつである。

いよいよ慣れ親しんだ冬にも逃げ帰れなくなったというわけだ。

春の悪魔にとりつかれた人々が口々に嘘をつきはじめた。

嘘をつくたびに生じる歪んだ割れ目からどくどく血が流れて「えいえん」も「ぜったい」も血まみれになっているというのに、そこへわざわざ嘘をかさねるとは随分とペシミスティックな話である。エイプリルフールなんて浮かれた呼び名はやめて、血塗られた四月とでも名付けるべきではないか。私は耳をふさいで白いシーツに包まっている。きみもはやくここへ逃げてくればいい。